コラム

 公開日: 2013-08-01  最終更新日: 2014-09-19

【勝手に解説番外編】裁判官はどうやって判決の結論に至るのか 1

今回のコラムでは実際にマスダが扱ったある事件を元に、「裁判官がどのようにして判決の結論に至るのか」をお話しいたします。

地裁敗訴からの逆転勝訴判決

数年前のことですが、ある貸金請求事件の控訴審で地方裁判所(以降、地裁といいます)敗訴の後、逆転勝訴判決をもらいました。私からしてみると、地裁で負けたことが不思議なような事件なのですが、どうして地裁の裁判官があんな判断をしたのかを考えてみました。
事件は、被告事件です。被告事件というのは、『訴えを起こされた側の事件』ということです。

●用語解説:『原告』と『被告』●
よく、一般の方に、「裁判を起こされたらあなたは『被告』になります」と言うと、「何も悪いことをしていないのに『被告』と呼ばれるのは心外だ」と言われることがあります。
民事の裁判では、良い悪いは関係なしに、訴えた人を「原告」、訴えられた人を「被告」と呼びます。
刑事事件で訴えられた人の正しい呼び名は「被告”人”」なのですが、裁判官やマスコミも”人”を省略して「被告」と呼ぶことがあるので、一般の方に誤解が生じてしまっているのでしょう。

お金を借りていないのに支払いを命じる判決が出された!?

詳細は守秘義務があるため申し上げられませんが、その依頼者から最初にお聞きした相談内容の骨子は、お金を借りてもいないのに返せと裁判を起こされている。間に入った人に騙されて借用証に署名・捺印はしたが、お金を受け取ってもいないのに、裁判官から和解を勧められ、弁護士に相談してみるように言われたというのです。

本人がお金を受け取っていないかどうかはこの時点では分かりませんが、本人の言う通りであれば、『貸金請求はお金の授受が契約成立の要件』なので、原告の請求が「認められるはずがない」ということになります。

原告が裁判所に提出した書面を読んでも、相談者である被告に「こういう方法でお金を渡した」という主張すら出ていません。これで貸金の返還請求を認めるというのはどうしても納得できませんので、金額は少額で、裁判所も札幌ではありませんでしたが受任することにしました。なお、原告側には、代理人の弁護士は付いておらず、原告本人が書面を作成しています。(これを「本人訴訟」といいます)

原告の提出する訴状の内容もその後に提出された書面も、要点を外したどう見ても素人の書面です。だからと言って、本当に貸金が認められるのであれば、裁判所が後見的な立場から原告に釈明をして主張立証を促すことはあり得ることですが、裁判所が原告側に肩入れしてさせた主張も「それでどうなの?」というのが私の感想でした。

しかし、少し不安になったので、その主張も通らないということを主張する書面を急遽作成して提出したのですが、一審の判決は、裁判官自身が言い出した法律構成で「原告勝訴」という内容でした。

出された判決理由でも、「原告から被告にお金が渡ったこと」は認定されていませんし、「原告が仲介者にお金を騙し取られた」ということも認定されていません。
つまり、お金が全く動いていないのに、「被告が書いた借用証がある」というだけで、被告に対して、借りてもいないお金を原告に払うよう命じる判決が出されてしまったのです。

裁判の判断過程 ~常識に照らして~

裁判官の判断過程について私はどう考えているかをまずご説明します。
裁判になるような事件は、基礎となる事実関係に関するお互いの言い分が食い違っていることが多く、事実関係が確定できれば、結論はおのずから見えるもので、実は、法的解釈によって事件の結果が変わる事件はほとんどありません。

そうすると、裁判官の関心は事件の当事者の間にどのような事実関係があったのかを解明するということになります。

事実が決まれば後はそれに法律を当てはめて結論を出す訳ですが、一般の法律は、確立した社会規範を国民が従うべきルールとして規定するものですから、大抵は事実に常識を当てはめれば結論は見える訳です。ですから、多くの弁護士も、最初に相談を受けたときに結論を予測するときには、自分の健全な常識に照らしてどちらの言い分に合理性があるかという視点で考えます。

その後、相談者の言い分が証拠によって立証可能かどうか、立証できるとして、その事実に適用される法規範に照らしても間違いないかを確認して法的な主張として組み立てて行くのが弁護士の行う作業の流れです。

時には、最初に抱いた結論の予測と法的に分析した結果が異なることもありますが、その場合でも、法的に分析した結果が本当に社会的合理性を持つのかを考えて、法律を形式的に適用して出された結論が不合理と考えれば、公序良俗違反だとか権利濫用といった一般条項を持ち出して別な結論を導くような主張を考えることになります。

裁判所の判断も、基本的には同じ思考過程をたどって、目の前の事件について「どちらを勝たせるか」をまず考えるはずです。最初に事件全体をみて大きな心証をつかんでから、細部の証拠を突き詰めて行って間違いがないかを確認したり、どうしても最初の印象と証拠が整合しないということで考えを変えたりすることはありますが、最初から法律の理屈を組み立てて行って結論を出すという裁判官は非常に稀だと思います。

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今回のコラムはここまでとします。次回のコラムでは今回掲載した事件の裁判官が判決を出した過程のマスダの分析をお話しいたします。

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