コラム

 公開日: 2016-04-23 

弁護士は何を考えて和解するのか(その1) 建物の明け渡しは結構大変

弁護士に事件を依頼した経験のある方で、裁判を起こして判決になれば勝てそうなのに、弁護士に説得されて譲歩して和解したという経験がある人は少なくないと思います。

そんなときに、依頼者の利益を無視して弁護士どうしで談合しているんじゃないかと感じる方も少なくないのではないでしょうか。実際に、私も親しくなった方から、昔事件を依頼した弁護士の話ということで、そんな話を聞かされたこともあります。

しかし、私自身、弁護士を25年以上やってきてそんな裏取引の話を聞いたことはありませんので、ほとんどの場合は、依頼者の利益を蔑ろにしているのではなく、譲歩するには理由があると考えた方が良いのだと思います。

おそらく、弁護士の方では、依頼者に和解した方が良い理由を説明しているつもりなのでしょうが、その説明がうまく伝わらずに誤解を与えているのだと思うので、弁護士が100%の勝ちを目指さずに和解した方が良いと考えるのはどんなときなのか、簡単にまとめておきたいと思います。

建物の明け渡しは簡単ではない


家賃を支払わずに入居者が賃貸した部屋に居座っていたら、大家としては、明け渡しを求めるのは当然として、それに加えて滞納している賃料も支払ってもらう必要があると考えるでしょう。法律上は、賃料を滞納していれば強制的に明け渡しさせることも滞納賃料を支払わせることも可能です。

しかし、入居者が任意に退去しなければ裁判を起こさなければならず、裁判で明け渡しを認める判決を取ったとしても、それでも入居者が出なければ、明け渡しの強制執行をしなければならなくなります。

明け渡しの強制執行は、裁判所の執行官に依頼して、賃貸物件の中に入居者の私物があれば、一時別の場所に保管するなどして部屋をきれいにするという方法で行いますが、そのためには、入居者の私物を搬出・保管するための費用(30~50万円位)を家主の側が一時的に負担する(裁判所に「予納」する)必要があります。この費用は、法律上は相手方に請求することができますが、支払い能力がなくて家賃を滞納している人から取り立てるのは事実上極めて難しいので、最終的には家主が被らざるを得ないということも良くあります。

後々こんなに費用と手間のかかる手続が待っているのであれば、自発的に退去してもらうように働きかける方が良いと考えるのは、手続の全体像を理解していれば当然に出てくる発想です。賃料の高い物件であればなおさらですが、多少の退去費用を支払ってやってでも早く出てもらって、次の入居者に貸せるようにする方が良いこともあります。

退去費用を支払ってあげるというのは極端な例ですが、滞納している賃料を免除してあげるから出て行ってくれという交渉であれば、上記のように強制的な明け渡しに要する費用と手間を分かっていれば納得してもらえるのではないでしょうか。

経験豊富な弁護士は、依頼者にとって最も良い解決ということを総合的な観点から考えます。(強制的な明け渡しを経験したことがなければそのような発想を持てないかもしれませんが…。)だからこそ、依頼者にとって一見マイナスに思えるような解決案を提案するのです。

当事者になった家主にとっては、家賃の滞納分の未回収だけでも大きな損失ですから、分割ででも支払う約束をしてくれないと困ると思うのは人情としては当然のことです。ところがそこまでやったとしても、相手が本当に支払えなくなって自己破産されてしまえば、頑張って分割払いの約束を取り付けたとしても、絵に描いた餅にしかなりません。

そうならないよう、弁護士は、入居者本人が自分の意思で退去するように、入居者の目の前にニンジンを見せてあげた方が良いですよとアドバイスするわけです。経験豊富な不動産業者が依頼者であればその辺の事情は察してくれるので、しょうがないと了解してくれますが、個人で賃貸しているような方にはなかなか理解してもらえないこともあります。

その結果、何時までも退去してもらえないので、余計な費用が掛かってしまい、おまけに次の入居者を入れることもできないので、収入も少なくなるという二重のマイナスを被ることになるのです。

「損して得取れ」ではありませんが、弁護士が和解のアドバイスをしたときに納得がいかないときは、感情的に反発するのではなく、まずはよくその理由を聞いてみるのが良いのでしょうね。

この記事を書いたプロ

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