コラム

2014-08-04

取り調べの全面可視化が実現しなかったこと

 先日、法務大臣の諮問を受けて設置された法制審議会の特別部会において、刑事司法制度に関する答申案の取りまとめがなされました。
 今までよりも一定の前進があったことは確かですが、取り調べの全面可視化が実現せず、可視化が一部にとどまることになったことは、正直とても残念です。

 弁護士の立場から言わせてもらうと、捜査機関が全面可視化への消極意見としてよく理由にする「被疑者が本当のことを話しにくくなる」というのは、あまり適切な理由とは思えません。

 そもそも、なぜ被疑者に語らせなければならないのでしょうか?
 自ら真摯に自白するのは、その被疑者本人に任せればよいと思います。その姿勢が、真摯な反省に見えるかもしれませんし、それが本人に有利に働くこともありうるからです。

 また、実は、被疑者本人がいくら自白していたとしても、客観的な裏付け証拠がなければ有罪とすることはできません。これを自白法則といいます。
 ですので、被疑者に語らせることが有罪の証明のために不可欠かと言われれば、決してそんなことはないわけです。

 被疑者の供述を得ようとするのは、被疑者本人から先に情報を得てしまい、その内容を元に裏付け捜査をすればよいという、捜査機関が楽をしたいだけの思惑なのではないかと疑わざるを得ません。

 科学が進歩した現代では、取り調べに頼るのは時代遅れというほかありません。現に、海外では取り調べに頼らない様々な捜査が行われています。
 日本でも、被疑者本人の供述に頼らず、もっと科学的な証拠収集に力を注ぐべきなのではないでしょうか。

 ところで、法制審議会の特別部会のとりまとめでは、一部の可視化との交換条件のように、通信傍受や司法取引という制度の導入に言及がありました。
 しかしながら、この二つもまた、やはり疑われている人の会話内容への関与であり、科学的な客観的証拠の収集ではありません。
 なぜ、捜査機関は「科学力による客観的証拠の収集方法の充実」という提案をしないのでしょうか。これは、個人的には大きな疑問です。

 このように、今回の法制審議会の特別部会のとりまとめは、冤罪をなくしつつ、犯罪に対しては的確に対処するという観点から考えても、非常に不十分であると感じます。
 供述に頼らず、もっと「科学力による客観的証拠の収集方法の充実」に向けて進んでいってもらいたいところです。

 私が力を入れている医療事件に関連するところでいえば、死因究明のための解剖制度の充実が、この「科学力による客観的証拠の収集方法の充実」にもつながるのではないかと思っています。
 この点はまたあらためて別のコラムで書きたいと思います。

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